第1回「五月病」

私は、自分の気持ちが滅入っている時、温泉に入って元気になるのですが、その時に思い出す事がひとつあるのです。

『ある時、道を歩いていて賢者がつまらなそうにレンガを積んでいる人の姿を見つけ「そこで何をしているのか」と尋ねたのです。その男は、「ただレンガを積んでいるだけだよ」とぶっきらぼうに答えたのです。その賢者はもう少し先に行ったところで、いかにも楽しそうにレンガを積んでいる男を見つけ、同じ質問をしたのです。するとその男は、「いまお城を作っているところなんだ」と答えたのです。』

同じことをしているこの二人の男の、その仕事をやっている理由が全く違うのです。
ところで、毎年現れる「五月病」。社員も職場に少し慣れて、ふと我にかえるその頃が危険なのです。

私が昔アメリカのダートマス大学に留学してスランプに陥った時、学部長のカール・ヒルがこんな話をしてくれました。

「自分が学校を卒業してある会社に入った時、最初にやらされたのは工場の旋盤工の仕事だった。毎日、毎日、旋盤の前で同じ仕事の繰り返しだった。一緒に入社した仲間は単調で面白くないと、文句を言っていた。しかし、私はその仕事がとても面白くて、充実した日々を送ることができたんだよ」と話してくれたのです。

確かに1時間後、1日後のことを考えてみると単調な仕事かもしれない。問題は短期ではなく長期に渡って自分の人生目標、夢や志(こころざし)を持ち続けることができるかどうかだと、学部長のカール・ヒルは私に言いたかったのではないかと思います。人間は、その人の心の持ち方、人生とどう向き合うかの心構えによってやる氣を起こすのではないでしょうか。