ここでいう「自己の責任」とは、あなたが現在どういう人間であるか、そして、どんな行動をとっているかを決めたのはあなた自身であり、あなただけがその責任を負う、という意味です。これは、当然のようにみえて、なかなかたいへんなことなのです。 うだつのあがらない人、失敗ばかりしている人は、この「責任感」に欠けている場合が多いのです。成績の悪い営業マンは、その原因を景気が悪い、天気がよくない、商品の値段が高すぎる、会社の販売方針が古い、上司が人のやる気に水を差す…などと、他に求めがちです。 夫は週末ごとに釣りに行く。家ではブツブツ文句ばかりで、妻とはまともな話もしない。そのうえ、その原因は、結婚前はスマートで可愛いかった彼女が、今では15キロも太ってしまい、彼が人並に出世していないと不平を言い、帰りが遅いと冷たい態度をとり、朝は食事もまともにつくらずにグーグー寝ているからだと思っている。「すべてあいつが悪いんだ」と夫は言います。 一方、妻は、いつも子供を大声で叱りつけ、夫には愚痴ばかり言っている。家が一向にきれいにならないのは、父親がきびしかった割に母親がぐうたらで、家事らしいことは教えてくれなかったからで、そのうえ、夫もぜんぜん彼女にねぎらいの言葉をかけてくれないからだ、と思っている。新しいガス台も必要だし、このまま、誰も自分を理解してくれない状態が続いたら、本当にノイローゼになってしまう、と言います。 これらはすべて、自分を正当化し、逃げ道をつくるための言いわけであり、自己防衛のための消極的な自己宣言だと言えます。つまり、こういう人々は「現在ある自分や、自分がとっている行動は私の責任ではない。他人が自分をこんな人間にしているのだ」と言っているのです。 自分のことはすべて自分で責任をとる、という「責任感」を備えた人は、どこか普通の人と違うものです。どこか人をひきつけ、人をこころよくさせるものを持っています。こういう人は、「今の自分、そして、今の自分がとっている行動は、すべて私自身が決めたものであって、全責任は私にある。自分の失点や失敗を人のせいにはしない。人生を実り多いものにすることが出来るかどうかは、私の努力いかんによって決まるのであって、他人によって決まるものではない」と考えているものです。 ここで、ある本について語りましょう。これまで英文で書かれたものの中で、これほど人々に感動を与えたものはない、と言われている作品で、自発心や個人の責任感、そして、他人に頼らず自分で切り開いていく力などについて、語っているものでする。 この作品は、1899年に、雑誌「フィリスタイン」を出版していたエルバート・ハバード氏によって書かれたもので、世界各地の人々に大きな衝撃を与えたと言われています。これは全米のボーイスカウト少年に配られました。また、ロシアの鉄道敷設労働者にも配布されました。 この古典ともいうべき作品は延べ１億冊以上印刷されました。そして、ハバード夫妻が1915年5月7日、北大西洋でドイツの潜水艦に撃沈されたルシタニア号で死亡した後も、彼の作品だけは、後世に伝えられています。 ハバードが取り上げたのは、キューバの革命家ガルシアに、アメリカ大統領の密書を届けた、アンドルー・サマーズ・ロウアンというアメリカ陸軍の若い中尉の話です。時の大統領マッキンリーは、ある日、陸軍情報局長に、ガルシアに密書を届けることのできる者はいないかと尋ねました。 局長は即座にロウアンの名をあげました。大統領はロウアン中尉に密書を託しました。その密書を持って、中尉は、24時間のうちにキューバに向けて出発。キューバに密かに上陸したロウアンの護衛は、革命軍が手配してくれた数人のキューバ人だけでした。彼等は敵に知られずに島内に潜入し、革命軍の指導者であるガルシアと会うことに成功したのです。 ロウアン中尉の話に心を動かされたハバードは、当時、彼が住んでいたニューヨーク州の田舎町の人々の社会教育に使おうと、ある晩1時間足らずで「ガルシアへの密書」という原稿を書きあげました。それまで彼は、町の人々にやる気を起こさせようと努力してきたが、なかなかうまくいかずに、いらいらしていたのでしたた。 この短い作品の中でハバードがとりあげたのは、責任感です。人が組織や社会の中で成功をおさめるために、どうしても必要なもので、しかも、持っているのがあたり前のように言われるが、実は貴重な人格なのです。これは、自己の責任を自ら果たした男――ロウアン中尉の話です。